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9年先まで赤字確定?!それでもヤマサが大工の学校を設立した理由とは。

2017年に設立した大工育成会社「絆工房ヤマサ」。2018年は一期生が入社し、大工の知識や技術の習得に励んでいます。育成にかかる費用や指導に必要な資材費など、莫大なコストを払ってまで、なぜ大工の育成にこだわるのか。立ち上げメンバーの篠田さんに聞きました!

この記事に登場する人

篠田 秀明(しのだひであき)
2014年に中途入社。
家づくりの一連の流れを理解し、技術者として多くの現場で大工とコミュニケーションを取ってきた経験を活かして、立ち上げメンバーとして絆工房ヤマサの設立に携わる。

大工をめざす若者にとってベストな成長環境を用意したい。

―はじめに、「絆工房ヤマサ」とはどういう会社なのか簡単にご説明いただいてもいいですか?

篠田:一言で言うなら、給与をもらいながら大工の知識と技術を学べる大工育成学校です。定期的な座学研修プログラムと圧倒的な実習機会の双方を用意し、理論と実践の反復をすることで、大工としての土台を養うことを目指しています。

―実践というのは、実際の現場に出て作業をするんですか?

篠田:最初の1か月は社内で大工仕事を一から学びますが、2か月目からは実際の建築現場に出てもらいます。普段施工を依頼している大工の棟梁の中から、絆工房の考え方に賛同いただける方に指導棟梁として協力してもらい、現場で作業をしながら棟梁から大工仕事を学ぶんです。

―大体何年で一人前の大工になれるんでしょう?

篠田:大工の世界では通常10年かかると言われますが、3年で一人前の大工になれるように当社オリジナルの育成プログラムを準備しています。実際に3年間で育成期間を修了し、一人前の大工として活躍しています。

―どうしてそれだけ短期間で育てることができたんでしょうか?

篠田:指導棟梁によって仕事のやり方が微妙に違っていたりするので、月2回の集合研修で各棟梁の良いところを持ち寄って技術のズレを平準化するということは意識していましたね。また、動画や最新ツールを使ったモデリング育成や実物大模型の建方実習等、ベストな成長環境を用意できるように試行錯誤を続けた結果だと思います。

鹿児島から大工が減ったら、鹿児島の家づくりは後退してしまう。

―そうしたコストをかけてまで、自前での大工の育成にこだわる理由は何ですか?

篠田:ご協力いただいている大工の高齢化の問題は以前からありました。新たに若い大工を採用する棟梁に対して補助金を出すようなこともしていたのですが、2、3年に1人増えるかどうか。根本的な解決にはなりません。鹿児島から大工が減れば、鹿児島の家づくりは後退してしまう。学校を設立することで数年間にわたり莫大な赤字が出ることはわかっていましたが、それでも自前で大工を育てて輩出していくことが重要だと判断したんです。

―初めての試みで、大変なことも多かったのでは?

篠田:当然ですが、最初に立てた仮説通りには進まない。最初の頃は常に何かトラブルが発生しているような状況でした。半人前の大工を指導棟梁に預けて育ててもらうわけですが、半人前とはいえ社員大工なので、棟梁から日当をもらわなければなりません。その賃金の調整も大変でしたね。一年目はとにかく調整ばかりしていた印象です。でも一期生が本当に頑張り屋な子たちばかりで助けらました。

―そうした試行錯誤を経て、育成期間を修了して活躍する大工も出てきたわけですが、今後の課題はありますか?

篠田:課題は次々に出てきますよ。これまでは、大工をめざす専門学校の卒業生に限定して受け入れていたのですが、今年から一般の高校生も受け入れることに。また、女性の受け入れも初めてです。今までと同じやり方が通用しないことも出てくるでしょう。まだまだ仮説検証を繰り返し、ベストな成長環境を模索していく必要があると思っています。また、ここで学んで一人前になった大工は、その腕一本でどこでも食べていけるということ。絆工房で働き続けてもらえるように、会社自体の付加価値も高めていきたい。やるべきことは尽きません。

―なるほど。でも、未来の鹿児島の家づくりのために、何としても成功させてほしいですね。頑張ってください!